Uyeda Jeweller
Column
和洋ジュエリー手帖
vol.14

なぜ人は身を飾るのか?

 

植田 友宏 / Tomohiro Uyeda

イスラエルとアルジェリアの遺跡から出土した約 10 万年前の貝殻のビーズが世界最古の装身具と言われています。

世界各国の遺跡から出土する遺物に装身具が全く出ない遺跡と言うのは殆ど無いと言える程、人類にとって装身具・ジュエリーは最古の道具のひとつ、と言えます。

一神教が生まれる前は人類は自然を畏怖し、アニミズム(自然崇拝)だった事を想像すると、海岸で拾った美しい貝殻や動物の牙、そして偶然発見した鉱物や真珠等、自然の力を身に着け、御守りとして護ってもらおうとしたのでは無いでしょうか?

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また、最近の脳科学の研究によると、人間は前頭前野腹内側部の小さな神経細胞の一群の動きが美しいものをみると、刺激され、自動的にそれをつかみたくなる、と言う衝動にかられ、倫理的な判断力が低下する事がわかって来ました。

とびきり美しいもの、その最たる例が宝石や、花など美しいジュエリーで身を飾りたい、手に入れたい、と言う欲求は心の反応だけでなく、体の反応でもあります。

それは人類が太古の時代から生き残る為に砂漠の中で水を探す時に輝く池に反応したり、 方向を正す時に輝く星を目印にしたり、太陽の温かさ、輝きを生命力の象徴として考えてきたことからもわかります。

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美しく輝くものを見たい、触りたい、持ちたいと言う欲求は人類の DNA の奥深く、骨の髄までしみ込んでいるのだと言えます。

人がなぜ身を飾るのか?と言う疑問への答えは美しいもの、輝くものを身に着ける事で自然の生命力の象徴を身に着けたい、と言う人間の生存本能から来ているのだと思います。

ウエダジュエラー
代表取締役社長
植田 友宏

参考文献

『ジュエリーの世界史』 山口遼著 新潮文庫 2016 年
『宝石と鉱物の大図鑑』 スミソニアン協会監修 日本語版監修 諏訪恭一、宮脇律郎 日東書院 2017 年