Uyeda Jeweller
Column
和洋ジュエリー手帖
vol.23

【資産】としてのダイヤモンド

 

植田 友宏 / Tomohiro Uyeda

ダイヤモンドといえば直ぐに美しいジュエリーを思い浮かべますが、世界の富裕層からは資産としても認識されています。

ダイヤモンドと人類の歴史は紀元前 4 世紀ごろにインドで始まったと考えられています。当初は富と権力の象徴としてマハラジャ達の占有物でしたが、時代と共にシルクロードを経てヨーロッパへ伝わりました。紀元 1 世紀、ローマの博物学者プリニウスは「ダイヤモンドは美しい石というばかりではなく、この世の全てで最も価値のあるものだ」と述べています。

その後 1400 年代にはヨーロッパの富豪達にとっても重要なものとなって行きましたが、非常に硬く研磨が難しいダイヤモンドは当初宝石としてはルビーやサファイアよりも下位の存在でした。そして 15 世紀にベルギーでダイヤモンドをダイヤモンドで研磨する方法が考案、確立されるとダイヤモンドは一気に宝石の王座に輝くようになりました。

ねじ梅留めのリング(大正期)/ A plum blossom motif ring (around 1920)
ねじ梅留めのリング(大正期)/ A plum blossom motif ring (around 1920)
日本独自の留め、ねじ梅留めのプラチナ製ダイヤリング。大正期に流行しました。ウエダジュエラー蔵

1700 年代からダイヤモンドの主な産地はインドからブラジルへと移行しましたが、同じ年代の後半までにそれまでダイヤモンドの最大の顧客であった旧支配層は政治革命などによって減少し、1800 年代に入るとアメリカとヨーロッパに新たな富裕層が増えました。

そして 1800 年代後半、ダイヤモンドの需要が拡大した時期に南アフリカで大規模なダイヤモンド鉱床が発見されました。1870 年代にはダイヤモンドの年間産出量は100万カラットを下回っていましたが、1920 年代には 300 万カラット、1970 年代には 5,000 万カラットを超えるまでに増えました。


このように、ダイヤモンドは人類の歴史の中で常に富の象徴として存在してきましたが、そんなダイヤモンドを資産として見た場合以下のようにいくつかの優れた点があります。

1.価格の安定性
ダイヤモンドは、あまたある宝石の中でも世界的に基準となる指標価格がある唯一の宝石です。4Cと呼ばれる等級により世界での流通価格がほぼ決まっているため、国や地域による価格差が生じにくい利点があります。但しダイヤモンドはひとつずつ色や内包物の大きさなどに差があり単に4Cだけの判断では無く、信頼の置ける店から購入することも重要な要素です。「宝石は何を買うかも重要だが、どこで買うかはさらに重要だ」といわれるゆえんです。

2.携帯性・運搬性に優れる点
第二次世界大戦当時、ヨーロッパ各地でナチスから迫害を受けたユダヤの人々は、土地や工場などの資産を置いて避難せざるを得ませんでした。また、「有事の金」と言われるゴールドも運搬には不向きでした。そんな彼らは唯一持ち出せたダイヤモンドを換金し、新天地での活動の原資とすることが出来たのです。

四方を海に囲まれ、他国と直接国境を接しない日本ではあまりなじまない考え方かもしれませんが、世界に目を向ければヨーロッパでもアジアでも「いざという時に持ち出せる」ことは資産の安全保障上重要とされるポイントなのです。

3.維持費がほぼかからない点
購入後に維持経費がほぼかからないのもダイヤモンドならでは、です。たとえば不動産は固定資産税など課税の対象となりますし、高級時計や特殊なスポーツカーなどは価値の下落を防ぐためにコンディションをキープしなければならず、メンテナンス費用が発生します。その点ダイヤモンドは大きな衝撃などを与えなければ変質せず、メンテナンスも必要ありません。

このようにダイヤモンドには資産としてのさまざまな優れた点がありますが、ダイヤモンドならば何でも良いか、というともちろんそんなことはありません。次のグラフはダイヤモンドの最上級グレードであるDカラー IFクラスのサイズ別の価格を、1992 年を 100 とした場合の推移を表しています。

ダイヤモンド価格増減表(ラウンドブリリアント D-IF)

ご覧のとおり、ダイヤモンドの一つの基準サイズである 1 ctはほぼ横ばいであるのに対し、3 ct、5 ctでは大きく値上がりし、2012 年には最大 250 %以上の値上がりとなっています。その後 2020 年にかけては中国の経済成長の鈍化や新型コロナウイルスの地球規模でのまん延により緩やかに値を下げましたが、ポストコロナとなりつつある今、価格は再び上昇の兆しを見せています。

また、このグラフにはありませんが、同じ推移を 10 ctで見ると 5 ctサイズ程値上がりしていません。これは 10 ctになると相対的にジュエリーとしての実用性が低くなるためと考えられます。更に大きな 30 ctを超えるようなサイズやピンク、ブルーと言ったカラーダイヤモンドは、非常に稀少性が高いため相場を形成するほどの数がなく、オークションでの流通が主ですが、近年では最高額の更新が続いています。

いかがでしたでしょうか。この先のダイヤモンドの価格がどうなるのかを予測することはもちろんできませんが、現在主流になっている地球規模での環境に対する配慮などから、ダイヤモンドの採掘コストは年々上がっており、供給が減少する可能性も出てきていると思われます。皆様も単に装飾品としてのみならず、「資産としてのダイヤモンド」という観点からご覧になってみてはいかがでしょうか。

ウエダジュエラー
代表取締役社長
植田 友宏


次号をお楽しみに