Uyeda Jeweller
Column
和洋ジュエリー手帖
vol.21

コロナ禍で変わって来たジュエリーの価値観

 

植田 友宏 / Tomohiro Uyeda

コロナ禍になり約2年が経とうとしています。すっかり外出、旅行の機会も減り身を飾る機会が無くなりジュエリーを着けずカジュアルな服装に慣れてしまったのでは無いでしょうか?お客様との会話の中でも日々その様なお言葉をお聞きします。

その様な中、1 月 29 日の日本経済新聞の朝刊の記事「LVMH、純利益 2.6 倍 前期コロナ前も上回る」「世界の金需要 昨年 10 %増 宝飾品、コロナ前回復」を読み、日本人にとっては「???」と言う気がしますが、記事ではアメリカ・インド・中国での消費回復が早いとの事。日本は一巡後に回って来るのでしょうか…期待しましょう。

Uyeda Jeweller K-line SLASH

現時点で感じている事はお客様のジュエリーに対する価値観が変わって来た、と言う事です。それは感染予防対策の為少人数でのトークサロンを何度かこの間開催させて頂き、お客様の反応を見て感じた事と日頃のお客様との接客を通じた会話の中から感じている事です。

トークサロンではジュエリーや花、美意識についてお話しし、ジュエリーのコーディネート提案をさせて頂きました。その話の流れで少しスピリチュアルな話題に振れた時に感じました。コロナ前はジュエリーを扱う者として敢えてスピリチュアルな話は避けて来ましたが不安な日々を過ごしている方々に少しでも明るいお気持ちになって頂きたいと精神的なジュエリーの価値について語らせて頂いた事がきっかけです。

西洋占星術では 2021 年から 200 年に 1 度の「風の時代」が到来したとの事。以前の時代「土の時代」の特徴は物質と領土拡大の時代、400 年前の「火の時代」は革命と英雄の時代だったそうで、「風の時代」は情報と知性の時代になるそうです。確かに土の時代の 200 年は産業革命からアメリカの時代、大量生産大量消費の時代でそのしわ寄せが今の地球温暖化や気候変動、新型コロナウィルス感染拡大などの原因になっていると言えます。また 400 年前は代表的な例で言うとフランス革命によりナポレオンが出て来た時代で、革命と英雄の時代でした。

撮影:植田友宏

ジュエリーもこの 400 年で大分変りました。第一に王族・貴族から一般大衆にジュエリーを身に着ける層が一気に広がった時代です。大航海時代、ダイヤモンドの鉱山が南アフリカで発掘され産業革命によりガス灯や板ガラスが発明され、ウィンドーショッピングを夜出来る様になり、輝かしいダイヤモンドが世に出回る文化や技術が生まれました。その後欧州の貴族的な文化から第一次大戦後より大衆的なアメリカの文化に移行し、女性の社会進出が加速しファッションもカジュアル化し、デザインもアール・デコ調の男性的ラインが好まれる様になりました。

以前のコラムでも書かせて頂きましたが、ジュエリーは時代を映す鏡であると感じています。

Column和洋ジュエリー手帖vol.8
ジュエリーは時代を映す鏡
植田 友宏

それではコロナ禍でジュエリーの価値観がどう変わったのでしょうか?どう変わっていくのでしょうか?

1. 長く良いものを大切につかいたい
長い外出自粛期間中に断捨離をされた方は多かったのでは無いでしょうか?その中で何が自分にとって一番大切か?何を取っておき、何を捨てれば良いか?換金すれば良いか判断されたと思います。また、お母様や御婆様の思い出をジュエリーは形として残す事が出来ますので、お母様や御婆様のお使いだったジュエリーを修理して使いたい、リフォームされたいと言う方も多くいらっしゃいました。

2. トレンドに流されず、自分が良いと感じれば良い
長く良いものを大切に使う為にはトレンドで良いと言うものでは無く、自分の価値観で良いものは良いと言う選択になって来た様な気がします。判で押した様な記号的なジュエリーでは無く、自分が良いと感じたジュエリーを直感的に選ぶ時代になって来たと感じています。

鈴木美彦作菖蒲帯留め(明治から昭和初期)/ Japanese Iris obi-sash clip by Yoshihiko Suzuki (late 1800s – around 1930)
和彫りの入ったロケットペンダント(昭和初期~中期)/ Japanese-style, engraved locket pendant (around 1930 - 1960)
3色の花びらと茎と葉の彫が繊細で美しい。ロマンティックなロケットペンダント。
アールデコ様式の帯留め(大正から昭和初期)/ An art déco style sash clip (around 1910 - 1930)
アールヌーボー様式のイヤリング(昭和初期~中期)/ Art Nouveau-style earrings (around 1930 - 1960)
アールヌーボー様式のイヤリング。銀製、パールを使ったスズランをモチーフとした愛らしいイヤリング。

3. 見得や虚栄では無い、護符的な価値
太古の時代から身を飾る装身具=ジュエリーは自然の脅威から身を守る護符の役割をしていました。コロナ禍の中、原始的な価値に回帰して来ている様な気がします。例えば赤いルビーを身に着ける事により元気を出したい、一番硬い強い鉱物のダイヤモンドを身に着け、御守り代わりの厄除けにしたい、等。

4. デザインはより軽く、小ぶりなジュエリーに
マスク生活が長引き、手洗い消毒をする機会が増え、顔の周りを明るく若々しくするアクセントに、ピアス・イヤリング、ネックレス、ペンダントのアイテムをご希望される方が多くなって来ました。また、デザインもマスクに引っかからない小ぶりのデザイン、そしてペアでは無く片方だけ違うデザインや地金も様々なコンビネーションにされるなど自由度が増して来ました。

本格的なジュエリー需要の回復は日本ではパーティーやイベントが正常に戻るまで時間がかかる事が予想されます。100 年前の世界的なスペイン風邪のパンデミックによりジュエリーデザインはベルエポックのガーランドスタイルやアール・ヌーボーの女性的な繊細なラインからアール・デコの直線的な男性的なデザインに一気に変わり、その後戻る事はありませんでした。恐らく今回のパンデミックも同じかそれ以上のインパクトがジュエリーデザインやファッションでも起こると思います。

どの様な傾向が不可逆的になり、トレンドになっていくのか?今回の変化は個人個人の自由度が増し、全体としての傾向としてはでは無く、小グループ内でのカルチャーに分散していくかもしれません。
ただ、全体の変化の傾向としては上述した通りです。

ウエダジュエラーは 2024 年創業 140 周年を迎えます。何度も危機を乗り越えて時代の感覚の変化を敏感に感じ取り存続して参りました。アフターコロナに向け、時代の価値観に合ったジュエリーをこれからもつくって参ります。

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